お茶道具屋さんと

お茶のお稽古が終わりになったある日の夕方、お道具屋さんが来ました。
京都を本店とする老舗の茶道の道具を扱うお店です。
N先生のご自宅は九州S県にある為、わざわざ、お道具屋さんが京都から行商に来るのです。

お道具屋さんは両手いっぱいに抱えられるサイズの、大きな箱に、20種類程の道具を入れて風呂敷に包んで運んできます。
道具とは、まず、床の間に掛ける掛け軸数種類。
家元が書いたもの以外に、お寺の高僧が書いた掛軸もありました。

無事是貴人と書いてあります。

つつがなく暮らしている人は、それだけで貴いひとであるという意味です。
迷いはおろか、悟りにも留まらず、ありのままでいる人が最高のひとと考えるそうです。

他に、お道具屋さんが、持ってきてくれた道具は、棗(お抹茶を入れる漆器)数種類。
棗にも、表面がつるつるしたものもあれば、ざらついたものもあります。
蓋の裏に記号のような印が書いてありますが、これは「花押(かおう)」と呼ばれ、お家元や茶人がその品を「お好み」としたことを指すのです。

掛軸も棗も何百種類とあります。
茶道のお道具は、その他にも水指・棚・蓋置き等、品種類が何十とカテゴライズされ、水指ひとつとっても、棗同様、何百種類とあるのです。

お茶道具の値段の話をすると、この数十年で随分下がったように感じます。昔の半額で売っていることもあるのです。
その背景には、お茶人口が減っていることにあります。

「茶道に携わる人の大半は、ご高齢の上の免状をお持ちの方が多く、若者は少ないどすなぁ。茶道人口をグラフ化するならば、「逆ピラミッド」の現象になってはりますよ。」
お道具屋さんが苦笑いをされていました。

茶道の世界の独自性ゆえ、とっつきにくさもあり、なかなか入れない・続けられない人も多いですが、より多くの人に、茶道の奥深さを楽しんでほしい…と。

茶道は慌ただしい日常から離れて、独特の世界の中へ入ることが出来ます。

お見合いパーティー体験談でお茶をやっている人同士盛り上がった、という話を見ましたが、人口が少ないだけにここで盛り上がれたのは貴重なのかもしれませんね。

無事是貴人、と書かれた掛軸を見ながら、欲に振り回されることのないように、自分を戒め、つつがなく過ごせるありがたさを噛みしめました。



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